Peter ZUMTHOR

今回、初めてグリサンというスイス北東部へ行った。マイク(ドリンスキー)がスイスの建築の宝石を見に行こうと出かける前に言っていた。ティチーノからグリサンへ行くには、犬で有名なセント・バーナードの峠を越えなければならない。この峠が石の文化のティチーノと木の文化のグリサンをはっきり分けている。一見して民家の作りの違いに気が付く。

 

最初に見たのが別荘。昔の木造の山の農家を増築したもので、既存の木造のリズムを守りながら見事に単純化して今日のものとして生き返らせている。動くものと静止したものとの間に介在する全ての付属品を剥ぎ取って、あまりの単純さに目を見張る。思わず施主に問題があったときにはどうするのかと聞いてしまった。答えはなにも問題は無いということであった。建築家ジュントールはもともと木工職人であったということだ。それを聞けばそのディテールは頷ける。その後、チャペル、シュールの遺跡保管施設、老人養護施設を見てその精密さに加えて、表被の醸し出す穏やかな表情、そしてそれを表現する光の扱いには目を見張らざるを得ない。フランスに居てこれだけのことを期待するのは不可能である。たとえティチーノの地方であってもできないことだ。これはやはり石の文化と木の文化の違いである。木の文化をもつ日本でもこういった建築は最近見当たらない。材料にこだわるばかりに日本の建築家が忘れてしまった空間の問題が追及されている。93年にフランプトンがVicoに来ていた時に言っていた建築のリージョナリスムという言葉が頭の中をよぎった。ジュントールの作業を通して、建築が常に対じして持つ材料と空間の問題をもう一度考えさせられた一夏であった。

 

 

 

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