5M40角の中に寝室と浴室がある。浴室にトイレはなく、洗濯機と乾燥機が備えている。浴室は正面全面に鏡張りの物入れがあり、背後の低い部分全部が収納になっている。上部にはパイプが通っていて日常、有効である。冬の素足に心地良い温かさが床から伝わってくることも悪くない。

 

実のところ、長い間パリに住んでいるKはこのところ湯船からお湯が溢れる、あの快感を味わっていない。やはり日本人にとって最大の楽しみなのかもしれない。何度かしか行った事の無い子供でさえ、風呂に入るたびに日本の風呂の事を言うのである。フランス人である連れ添いはシャワーしか浴びない。ここ数年Kも朝シャワーを浴びる習慣になれてしまっているため、独立したシャワーは便利である。しかし、Kは溢れる湯に浸かりながら外の風景を眺める、外から干渉されずにいる日本の温泉を頭の中に浮かべている。温泉では自分と自然とが繋がっている。Kの浴場は大都市にある一般的な閉ざされた浴室ではなく、都市と繋がっていく。

浴室というと、機能的かどうか、どんな材料が使われているかが問われる事が多い。小さな空間になればなるほど材料、あるいは物の存在感が空間を決定する要素になり兼ねない。Kはそうした材料よりも自分と外との関係を作りたいと考えていた。Kは細い隙間から入ってくる都市の風景が小さな風呂場という空間に入ってくる事によって都市に生活しているということを実感し、都市自身を自分の私生活の中に取り込んでいる。

不思議な事にひとつの風呂を考える事によって、一戸の住宅の全体像が見えてくる。

 

 

 

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